融資先や取引先の会社が、在庫や売掛金などをすでに担保として譲渡していないか。登記の面からこれを確かめる入口になるのが「概要記録事項証明書」です。動産譲渡登記・債権譲渡登記には名前のよく似た3種類の証明書があり、請求できる人、請求先、記載される内容がそれぞれ異なります。この記事では、条文と法務省の案内に沿って、3つの証明書の違いと、融資審査や取引前の確認での使い方を登記の観点から整理します。
結論。概要記録事項証明書は、譲渡人の会社・法人ごとに動産譲渡登記・債権譲渡登記の概要を記録したファイルの証明書で、誰でも全国の商業登記所・不動産登記所で請求できます(動産・債権譲渡特例法13条)。記載されるのは登記の有無、登記番号、登記の年月日、譲受人などで、登記原因や存続期間は東京法務局で誰でも取れる登記事項概要証明書に、対象の動産・債権は当事者や利害関係人などに限って請求できる登記事項証明書に記載されます(動産・債権譲渡特例法11条)。登記以外の方法で対抗要件を備えた譲渡は記録に表れないため、「ないこと証明」は譲渡がないことまでは示しません。
概要記録事項証明書の要点は?
- 請求できる人
- 誰でも(登記事項証明書だけは当事者・利害関係人などに限られます)
- 請求先
- 全国の商業登記所・不動産登記所と法務局証明サービスセンター(譲渡人の本店所在地に限りません)
- 分かること
- 譲渡人(会社・法人)ごとの動産譲渡登記・債権譲渡登記の有無、登記番号、登記の年月日、譲受人
- 分からないこと
- 対象の動産・債権、登記原因、存続期間、登記の時刻、登記以外の方法で対抗要件を備えた譲渡
- 反映の時期
- 東京法務局で登記が完了し、本店所在地の登記所で記録が済んでから。登記の直後は表れません
概要記録事項証明書とは?
法人が動産や債権を譲渡し、動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(以下「特例法」)に基づく動産譲渡登記・債権譲渡登記をすると、その内容は東京法務局のファイルに記録され、譲渡人の本店(主たる事務所)の所在地を管轄する登記所にも通知されます。通知を受けた登記所は、譲渡人ごとの「動産譲渡登記事項概要ファイル」「債権譲渡登記事項概要ファイル」に概要を記録します(特例法12条)。このファイルの記録を証明したものが概要記録事項証明書で(同13条1項)、債権を目的とする質権設定登記も記録されます。
証明書には、現に効力を有する登記を記載した「現在事項証明書」と、全部の抹消や存続期間の満了で閉鎖された記録の「閉鎖事項証明書」があり、動産と債権でファイルが分かれています。該当する記録がないときは、記録されている事項がない旨の証明書(いわゆる「ないこと証明」)が交付されます。
登記事項概要証明書・登記事項証明書とはどう違う?
動産譲渡登記・債権譲渡登記の証明書は3種類あり、情報の内容に応じて開示の方法が分けられています。
- 概要記録事項証明書
- 譲渡人ごとに、登記の有無と概要(登記番号、登記の年月日、譲受人など)を記載。全国の商業登記所・不動産登記所などで、誰でも請求できます(特例法13条)。
- 登記事項概要証明書
- 登記番号ごとに、対象の動産・債権を特定する事項を除いた登記事項(登記原因とその日付、存続期間、既発生の債権のみを譲渡する場合の債権の総額、登記の年月日と時刻など)を記載。東京法務局で、誰でも請求できます(同11条1項)。
- 登記事項証明書
- 対象の動産(種類と記号・番号、または種類と保管場所の所在地など)や債権(債務者、発生原因、発生年月日など)を含む登記事項の全部を記載。東京法務局で、当事者や利害関係人などに限って請求できます(同11条2項)。債権を2個以上まとめて証明する「一括証明」では、弁済期や契約年月日などの記載が省略され、債務者が複数いても1名だけの記載になります。
名前の似た概要記録事項証明書と登記事項概要証明書には、次の違いがあります(法務省の債権譲渡登記のQ&A・動産譲渡登記のQ&A)。
- 債権譲渡登記で譲受人が複数いる場合、登記事項概要証明書には全員が個別に記載されますが、概要記録事項証明書には全員が記載されるとは限りません。譲受人をすべて確かめるときは、登記事項概要証明書で確認します。
- 登記の時刻は、東京法務局で交付される証明書には記載されますが、概要記録事項証明書には記載されません。
それぞれの証明書は、誰が請求できる?
概要記録事項証明書と登記事項概要証明書は「何人も」請求できます(特例法13条1項・11条1項)。相手方の協力がなくても、商号と本店が分かれば取れます。
これに対して、登記事項証明書を請求できるのは、次の人に限られます(特例法11条2項、動産・債権譲渡登記令15条)。
- 譲渡人・譲受人(質権設定登記では質権設定者・質権者)
- 動産では、その動産の取得者、差押え・仮差押えをした債権者、担保権や賃借権などを取得した人
- 債権では、その債権の債務者、取得者、差押え・仮差押えをした債権者、質権を取得した人
- 以上の人または譲渡人・譲受人について、その財産を管理・処分する権利を持つ人(破産管財人など)
- 譲渡人(質権設定者)の使用人
書面で請求する場合は、作成後3か月以内の印鑑証明書や、利害関係人であればそれを証する書面の添付が求められます。これから融資や取引を検討する段階の金融機関や取引先は、通常この範囲に含まれません。対象の動産・債権まで確かめたいときは、譲渡人自身に登記事項証明書を取得してもらい、提示を受ける方法が考えられます(法務省のQ&A)。
どこで、どうやって請求する?
概要記録事項証明書は、譲渡人の本店所在地を管轄する登記所に限らず、不動産登記または商業・法人登記を取り扱う全国の登記所で請求できます(特例法13条2項)。法務局証明サービスセンターでも取り扱っています。オンラインで請求して窓口や郵送で受け取ることもできますが、電子データでの交付はありません。
登記事項概要証明書・登記事項証明書は、東京法務局民事行政部の動産登録課・債権登録課(東京都中野区野方)に、窓口・郵送・オンラインのいずれかで請求します。オンライン請求では、電子データで受け取ることもできます。ただし、登記事項証明書をオンラインで請求できるのは、動産では譲渡人・譲受人、債権では譲渡人・譲受人・債務者に限られます。
東京法務局では、登記番号で探す方法と、譲渡人の商号・本店で探す方法があります。概要記録事項証明書と違い、東京法務局のファイルは譲渡人の商号変更・本店移転に連動しないため、変更後の商号などで検索しても、変更前の商号などでされた登記はヒットしません(法務省の申請書記載例)。先に概要記録事項証明書で登記番号を確認し、その番号で請求すると漏れを防げます。様式は法務省の債権譲渡登記・動産譲渡登記の証明書交付請求のページにあります。
証明書から何が分かり、何が分からない?
3つの証明書で分かるのは、譲渡人ごとの登記の有無と概要(概要記録事項証明書)、登記番号ごとの登記原因や存続期間など(登記事項概要証明書)、対象の動産・債権まで含む登記事項(登記事項証明書。請求できるのは当事者や利害関係人などに限られます)です。一方、どの証明書からも分からないことがあります。
- 動産・債権が実際に存在するか、譲渡が真実にされたか。登記の申請に、それらを証する書面の添付は求められていません。債権譲渡登記の登記事項概要証明書にも、債権の存否を証明するものではない旨の注記があります(法務省のQ&A・証明書の様式例)。
- 登記以外の方法で対抗要件を備えた譲渡。動産は引渡し(民法178条。占有改定(同183条)を含みます)、債権は確定日付のある証書による通知・承諾(同467条)によっても第三者に対抗でき、登記との優劣は対抗要件を備えた時の先後で決まります(現行法の扱いです。譲渡担保法の施行後の扱いは譲渡担保法と登記の解説をご覧ください)。これらは登記に記録されません。
- 直近の登記。概要記録事項証明書には、東京法務局で登記が完了してから、本店所在地の登記所で概要ファイルへの記録が済むまでは反映されません。東京法務局で譲渡人の商号・本店から検索して請求する場合も、検索できるのは請求した日の前業務日までの登記です(法務省の申請書記載例)。申請中で完了していない登記は、どの証明書にも表れません。
- 融資の条件など、契約の内容。登記されるのは、法律で定められた登記事項に限られます。
このため「ないこと証明」は、その会社を譲渡人とする登記の記録がないことを示すにとどまり、譲渡そのものがないことまでは示しません。
融資審査や取引前の確認では、どう使う?
登記の観点からは、次の順序で確認すると無駄が少なくなります。
- 相手方の会社の概要記録事項証明書(動産・債権それぞれの現在事項証明書)で、登記の有無を確認します。
- 記録があれば、登記番号をもとに東京法務局で登記事項概要証明書を取り、登記原因、存続期間、登記の時刻を確認します。
- 予定している担保や取引の対象と重なるかは登記事項証明書でしか分からないため、相手方に取得と提示を依頼します。債権の照合には、記載の省略がない債権1個ごとの「個別事項証明」が適しています。
- 融資の実行日や契約日の直前に、東京法務局で譲渡人の商号・本店から登記事項概要証明書を請求し、概要記録事項証明書にまだ反映されていない新しい登記がないかを確認します。ただし、請求した日当日の登記や処理中の登記は表れません。
- 登記に表れない対抗要件(占有改定や確定日付のある通知など)は、登記以外の方法で確認します。
M&Aで対象会社を調べる場面でも同じ手順が使えます。合併の後は、消滅した会社の概要ファイルの記録が存続会社(新設合併では設立会社)の本店所在地の登記所に移され、消滅した会社のファイルは閉鎖されます。会社分割や事業譲渡で対象会社が取得した資産について、分割会社や譲渡会社が譲渡人としてした登記は、対象会社ではなく、それらの会社の概要記録事項証明書で確認します。合併の登記の流れは合併の登記の解説をご覧ください。
一般化した設例 ― 在庫と売掛金を担保にした融資を検討する場合
以下は説明のための一般化した設例です。金融機関が、製造業のA社に在庫と売掛金を担保とする融資を検討しているとします。
- A社の概要記録事項証明書を請求したところ、動産は「ないこと証明」で、債権はB社を譲受人とする債権譲渡登記が1件記録されていました。
- 登記番号をもとに東京法務局で登記事項概要証明書を取得すると、登記原因は「譲渡担保」で、存続期間の満了日も確認できました。将来発生する債権を含む譲渡のため、債権の総額は記載されていません。
- A社に登記事項証明書の取得と提示を依頼し、対象の売掛金が今回担保とする予定の売掛金と重なるかを照らし合わせます。
重なる場合にどう扱うかは、契約と与信の判断です。登記の手続きとしては、在庫について動産譲渡登記をするなら動産の特定(動産の特定の解説)、融資の実行日に合わせた申請の日程、存続期間の管理(存続期間と延長登記の解説)が検討事項になります。
登記をした側(譲受人)が押さえておきたいことは?
債権譲渡登記で備わるのは、債務者以外の第三者に対する対抗要件です。債務者に対して主張するには、登記事項証明書を交付して通知するか、債務者の承諾を得ることが別に必要です(特例法4条2項)。通知に使う登記事項証明書は、登記の完了と同時に交付を請求することもできます(法務省の案内でいう「同時申請」)。
なお、2025年6月6日公布の「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」の施行にあわせて、動産・債権譲渡登記の制度も見直されます。施行日は「公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日」で、2026年10月6日時点で、施行日を定める政令は確認できていません。この記事は現行法に基づいています。見直しの内容は譲渡担保法と登記の解説で整理しています。
当法人では、債権譲渡登記・動産譲渡登記の申請と、その前後の証明書の請求や記載内容の確認について、登記の観点からのご相談を承ります。契約内容の当否や与信は金融機関のご担当者や弁護士の先生方、税務は税理士の先生方のご判断を前提とし、登記に関するご相談への回答と登記の申請は司法書士が行います。詳しくは企業法務・ファイナンス登記、法人・不動産事業者の方へのページをご覧ください。
Q. 登記情報提供サービスの画面で確認すれば足りますか?
A. 登記情報提供サービスで提供を受けられるのは、概要記録事項証明書に記載される事項です。債権譲渡登記の登記事項概要証明書・登記事項証明書の内容は確認できません(法務省のQ&A)。また、提供されるのは情報で、証明書ではありません。書面での証明が必要なときは、証明書を請求します。
Q. 閉鎖事項証明書は、どのようなときに使いますか?
A. 全部が抹消された登記や存続期間が満了した登記は、現在事項証明書には表れません。過去の登記や、全部の抹消登記が済んだかを確かめるときは、閉鎖された記録を対象に請求します。証明書は3種類とも、閉鎖された記録について請求できます。
Q. 個人事業主の在庫や売掛金も、同じ方法で調べられますか?
A. 動産譲渡登記・債権譲渡登記は、法人が動産・債権を譲渡した場合の制度です(特例法3条1項・4条1項)。個人が譲渡人となる譲渡はこれらの登記ができないため、概要記録事項証明書などでは確かめられません。個人の場合は、引渡しや確定日付のある証書による通知・承諾など、民法の方法で対抗要件を備えます。
この記事は2026年10月6日時点の法令・登記実務に基づいて作成しています。制度改正があれば見直します。
司法書士法人エクスライトは、東京都渋谷区東三丁目6番22号グラマシー恵比寿100号室にあり、恵比寿駅から徒歩6分、渋谷へは1駅、五反田へも山手線ですぐの立地です。受付は毎日9:00〜19:00、司法書士5名・法務スタッフ11名の体制でご相談を伺っています。
債権譲渡登記・動産譲渡登記に関するご相談はこちら
受付 毎日 9:00〜19:00 / 案件の概要から、必要な登記と日程を整理します
