2025年6月6日、「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」(令和7年法律第56号。以下「譲渡担保法」)と、その施行に伴う関係法律の整備法(同第57号。以下「整備法」)が公布されました。これまで判例と実務に委ねられてきた譲渡担保・所有権留保のルールを明文化する法律で、あわせて動産・債権譲渡登記の制度も見直されます。在庫や売掛金を担保にする融資(ABL)やプロジェクトファイナンスなどで動産・債権譲渡登記を使う方に向けて、登記に関わる改正点と、施行前に確認しておきたい点を整理します。
結論。譲渡担保法の施行日は、公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日とされ、2026年10月6日時点で施行日を定める政令は確認できていません。施行後は、占有改定で対抗要件を備えた動産譲渡担保権が、動産譲渡登記などで対抗要件を備えた譲渡担保権に劣後するルールが設けられ、登記の重みが増します。動産・債権譲渡特例法の改正により、譲渡担保権者の記録、競合担保登記目録と順位変更の登記、所有権留保登記などが設けられ、動産譲渡登記の存続期間の上限は10年から20年に延びます。施行前に占有改定だけで対抗要件を備えた動産譲渡担保権には、施行日から2年以内に順位保全の登記をする経過措置があります。施行までは現行法が適用されるため、施行前に進める契約と登記は現行の要件で整えつつ、施行後の扱いを確認しておくことをお勧めします。
譲渡担保法と登記の見直しの要点は?
- 法律
- 譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律(令和7年法律第56号)と、同法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(同第57号)
- 公布日
- 2025年6月6日(成立は同年5月30日)
- 施行日
- 公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日(法務省は令和9年12月までに施行と案内)
- 優劣の特則
- 占有改定で対抗要件を備えた動産譲渡担保権は、登記など占有改定以外の方法で対抗要件を備えた動産譲渡担保権等に劣後(譲渡担保法36条1項)
- 登記制度の主な見直し
- 譲渡担保権者の記録、競合担保登記目録と順位変更の登記、転譲渡担保・移転・分割譲渡の登記、所有権留保登記、動産譲渡登記の存続期間の上限20年
- 経過措置
- 施行前に占有改定で対抗要件を備えた動産譲渡担保権は、施行日から2年以内の順位保全の登記で当初の順位を保てる(譲渡担保法附則5条)
譲渡担保法とはどんな法律か?
譲渡担保は、債務を担保する目的で、債務者などが動産や債権を債権者に譲渡する手法です。在庫や機械設備を使い続けながら担保に入れられるため、ABLや設備のファイナンスで使われてきましたが、民法に規定がなく、ルールの多くは判例によって形づくられてきました。譲渡担保法は、こうした譲渡担保契約と、動産を目的とする所有権留保契約について、効力、優劣、実行の方法、破産手続などでの扱いを定める法律です。
条文で定められた例は次のとおりです。
- 設定者が目的の動産を使用・収益できること(譲渡担保法29条)
- 倉庫内の在庫のように種類と所在場所などで範囲を定めた集合動産や、発生時期・発生原因などで範囲を定めた集合債権を、まとめて目的にできること(同法40条・53条)
- 債務者との間に生ずる一定の範囲に属する不特定の債権を担保する根譲渡担保(同法13条〜26条)
不動産などの抵当権の目的とすることができる財産(一部の例外があります)や、特許権・商標権などの一定の権利は、この法律の譲渡担保契約の対象から外されています(譲渡担保法2条1号)。登記との関係では、整備法によって、動産・債権譲渡登記の根拠法である「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」(以下「特例法」)が改正されます。
施行日はいつか?
譲渡担保法は、一部の規定を除き、「公布の日から起算して二年六月を超えない範囲内において政令で定める日」から施行されます(譲渡担保法附則1条)。整備法も、経過措置を政令に委ねる33条(公布の日に施行)を除き、譲渡担保法の施行の日から施行されます(整備法附則)。法務省は令和9年(2027年)12月までに施行されると案内していますが、2026年10月6日時点で、施行日を定める政令は確認できていません。
施行日までは、現行の特例法と判例のルールで契約と登記を進めることになります。一方で、譲渡担保法は、附則に特別の定めがある場合を除き、施行日前に締結された譲渡担保契約・所有権留保契約にも適用されます(施行日前に生じた効力は妨げられません。同法附則2条)。施行前に締結する契約も施行後は新しいルールの下に置かれるため、施行日を待たずに影響を確認しておく意味があります。最新の状況は法務省のページで確認できます。
占有改定劣後ルールで動産譲渡登記の位置づけはどう変わるか?
動産の譲渡の対抗要件は引渡しで(民法178条)、引渡しには、設定者が手元に置いたまま「以後は担保権者のために占有する」と意思表示する占有改定(民法183条)も含まれます。法人がする動産の譲渡は、動産譲渡登記をすれば引渡しがあったものとみなされます(特例法3条1項)。現行法では、占有改定と登記のどちらで対抗要件を備えたかで差はなく、先に備えた方が優先すると考えられています。
譲渡担保法は、動産譲渡担保権どうしの順位を引渡しの前後によると定めたうえで(譲渡担保法32条)、例外として、占有改定で対抗要件を備えた動産譲渡担保権は、占有改定以外の方法で対抗要件を備えた動産譲渡担保権や動産質権、企業価値担保権(事業性融資の推進等に関する法律による担保権)に劣後するとしました(譲渡担保法36条1項)。この「占有改定以外の方法」には、特例法3条1項によって引渡しがあったとみなされる場合、つまり動産譲渡登記が含まれます。占有改定は外から見えず、後から融資をする側が先行する担保の有無を把握しにくいためです。法務省の資料では、このルールを「占有改定劣後ルール」と呼んでいます。
一般化した設例で考えます。施行後に、A社が在庫について、まず甲社のために占有改定で譲渡担保を設定し、その後、同じ在庫について乙社のために譲渡担保を設定して動産譲渡登記をしたとします。現行法の下であれば先に対抗要件を備えた甲社が優先すると考えられますが、施行後は、登記をした乙社が優先します。設定者に動産を使わせたまま担保にとる場面では、動産譲渡登記の有無が順位に直結するようになります。なお、甲社の占有改定が施行前のものであれば、施行日から2年以内の順位保全の登記で当初の順位を保てる場合があります(譲渡担保法附則5条1項。後述)。
また、目的の動産の代金債務などだけを担保する譲渡担保には、引渡しがなくても第三者に対抗でき(譲渡担保法31条)、その債務の限度で原則として他の担保権に優先する(同法37条)という特則があります。登録自動車のように登記・登録をしなければ権利の得喪を対抗できない動産には、占有改定劣後ルールを含め、これらの特則は適用されません(同法46条)。
動産・債権譲渡登記の制度は何が変わるか?
整備法による特例法の改正のうち、登記に関わる主な点は次のとおりです(条文番号は改正後の特例法のもの。法務省の新旧対照条文(整備法)で確認できます)。
- 申請の方法
- 現行法でも譲渡人と譲受人の申請によりますが(現行の7条2項・8条2項)、改正後は、登記権利者と登記義務者による共同申請の原則が一般的な規定として置かれます(6条の2)。延長登記・抹消登記では、譲渡担保権者が登記されているときは、譲受人に代えて譲渡担保権者が申請人になります(9条1項・10条1項)。
- 会社法人等番号
- 譲渡人・譲受人が会社法人等番号を有する法人であるときは、その番号も記録されます(7条2項4号・8条2項1号)。
- 動産の特定
- 動産の種類と、所在場所その他の種類以外の事項で動産の特定に必要なものを記録する形に改められます(7条2項6号)。法務省の概要資料では、特定方法を緩和し、所在場所の特定は必須としないとされています。
- 存続期間
- 動産譲渡登記の上限が10年から20年に延びます(7条3項。特別の事由がある場合を除く)。債権譲渡登記は、債務者がすべて特定している場合は50年、それ以外は10年のままです(8条3項)。
- 譲渡担保権者の記録
- 登記原因を譲渡担保とする動産譲渡登記・債権譲渡登記では、譲渡担保権者の氏名・住所(法人は商号・本店)なども記録されます(7条6項・8条6項)。
- 権利の変動の登記
- 転譲渡担保権(譲渡担保権をさらに譲渡担保の目的にしたもの)の設定、譲渡担保権者等の氏名等の変更、譲渡担保権等の移転による変更の登記ができるようになります(10条の2〜10条の4)。根譲渡担保権の譲渡・一部譲渡と転動産譲渡担保権の設定は、原則として特例法の登記が対抗要件です(譲渡担保法23条1項・38条2項)。
- 競合と順位
- 譲渡担保権等が競合する旨を記録する競合担保登記目録と、順位の変更の合意の登記が設けられます(10条の5・10条の6)。
- 根譲渡担保権
- 根譲渡担保権の分割譲渡は、分割した側について別の動産譲渡登記・債権譲渡登記を作成する方法で登記します(10条の7)。
- 所有権留保登記
- 法人を留保買主等とする所有権留保について、動産譲渡登記に準じた所有権留保登記が設けられます(13条の2)。
- 抹消登記
- 抹消の事由に、譲渡担保権がその担保する金銭債務の全部の履行その他の原因により消滅したことが加わり、記録上の利害関係を有する第三者がいるときはその承諾が要件になります(10条1項3号・2項)。
登録免許税法にも、これらの登記の区分が加えられています(整備法8条)。競合担保登記目録の作成方法など、手続の細部は法務省令で定めることとされているものもあり(特例法10条の5第5項など)、施行に向けて公表される省令や法務局の案内を確認する必要があります。現行法を前提にした動産の特定の考え方は動産譲渡登記の「動産の特定」の解説で、存続期間と延長登記は存続期間と延長登記の解説で説明しています。
譲渡担保権者の記録と競合担保登記目録は何に役立つか?
法務省の概要資料によると、改正後の登記記録は、これまでの記録事項に、譲渡担保権に関する事項と競合担保登記目録が加わる形になります。譲渡担保権者の欄が設けられることで、担保権が別の金融機関に移転したときや、譲渡担保権者が商号を変更したときに、その変更を同じ登記に記録できるようになります(特例法10条の3・10条の4)。氏名等の変更の登記は譲渡担保権者が単独で、相続・合併による変更の登記は相続人や合併後の法人が単独で申請できます。
競合担保登記目録は、同じ財産について複数の譲渡担保権等が競合していることを示すものです。競合する旨の登記は、譲渡人と譲渡担保権者が共同して申請し、競合する相手方の登記の譲渡人等が異なるときは、その承諾が要件になります(特例法10条の5第1項・2項)。譲渡担保権の順位は各譲渡担保権者の合意で変更できますが、この変更は登記をしなければ効力を生じません(譲渡担保法33条2項・50条2項)。順位の変更の合意の登記は、対象となる登記が同じ競合担保登記目録に記録されている場合に限って申請できるため(特例法10条の6第3項)、協調融資や後順位での融資を組む場面では、目録への記録を含めて登記の日程を組むことになります。
所有権留保登記とはどんな登記か?
所有権留保は、代金が完済されるまで売主に所有権を残しておく合意で、譲渡担保法は、信販会社などの第三者に所有権を留保する場合も対象にしています(譲渡担保法2条16号)。所有権留保は、原則として、留保買主等から留保売主等への引渡しがなければ第三者に対抗できず(同法109条1項)、代金債務など一定の債務だけを担保する場合は、引渡しがなくても対抗できるとされています(同条2項)。ただし、登録自動車のように登記・登録を対抗要件とする動産は同条2項の対象外で、留保売主等を所有者とする登記・登録が対抗要件です(同条1項・2項)。
改正後の特例法では、法人を留保買主等とする所有権留保について所有権留保登記をすることができ、登記がされたときは、譲渡担保法109条1項の引渡しがあったものとみなされます(特例法13条の2第1項で準用する3条1項)。登記上は、譲渡人に当たる欄が「留保買主等」、譲受人・譲渡担保権者に当たる欄が「留保売主等」と表記されます。同じ動産について動産譲渡担保権と留保所有権が競合する場合は、複数の動産譲渡担保権が競合する場合とみなして順位の規定が適用され(譲渡担保法111条3項)、占有改定劣後ルールも留保所有権に準用されます(同条1項)。
施行前の譲渡担保は施行後どう扱われるか?
譲渡担保法は施行日前に締結された契約にも適用されるため、占有改定劣後ルールも施行日前の譲渡担保に及びます。施行日前に占有改定で対抗要件を備え、それまで優先できていた譲渡担保権でも、施行後に登記などで対抗要件を備えた譲渡担保権者が現れると、劣後することになります。
そこで、施行日前に占有改定で対抗要件を備えた動産譲渡担保権について、施行日から起算して2年を経過する日までの間に、附則5条の適用を受ける譲渡担保である旨を登記原因として記録した動産譲渡登記(法務省の資料では「順位保全の登記」)がされたときは、当初の占有改定の時に、占有改定以外の方法で対抗要件を備えたものとみなす経過措置が設けられています(譲渡担保法附則5条1項)。所有権留保についても、所有権留保登記による同様の措置があります(同条2項)。期間を過ぎるとこの経過措置は使えないため、占有改定だけで対抗要件を備えている案件を施行前に洗い出しておくことをお勧めします。
また、施行日の時点で既にされている、登記原因を譲渡担保とする動産譲渡登記・債権譲渡登記には、登記官が職権で譲渡担保権者に関する事項を記録することとされています(整備法17条)。順位保全の登記の申請書の書き方や登記原因の記録の方法など、手続の細部は、施行に向けて示される法務省令や法務局の案内で確認が必要です。
施行前に契約や登記を進めるときに確認しておきたいことは?
施行日までは現行法が適用されます。そのうえで、登記の観点から次の点を確認しておくと、施行の前後で扱いが分かれる部分を見落としにくくなります。
- 存続期間 ― 施行前にする動産譲渡登記の存続期間の上限は10年です(現行の特例法7条3項。特別の事由がある場合を除く)。施行前の登記を延長する場合の扱いは、経過措置を含めて施行時に確認が必要です。
- 対抗要件の備え方 ― 設定者に動産を使わせたまま担保にとる場合は、動産譲渡登記を備えるかどうかを検討します。占有改定だけの既存案件は、順位保全の登記の要否と期限を管理しておくと安心です。
- 登記原因と契約書案の対応 ― 登記原因を譲渡担保とする登記は、施行後に譲渡担保権者の記録の対象になります。契約書案の内容と登記原因の記載が対応しているかを確認します。
- 当事者の情報 ― 譲渡人・譲受人の会社法人等番号や、外国法人であれば日本における営業所などを早めに把握しておきます。
- 先行する担保の確認 ― 譲渡人について既にされている動産・債権譲渡登記の有無は、概要記録事項証明書などで確認できます(概要記録事項証明書の解説)。
契約の内容やスキームの当否、担保の優劣の見通しは、弁護士の先生方や金融機関のご担当部署のご判断が前提です。当法人では、契約書案のうち登記申請に必要な記載の確認から、動産・債権譲渡登記の申請までを承ります(企業法務・ファイナンス登記)。再生可能エネルギー設備の案件で、SPCの登記とあわせて進める場合の段取りは再エネ設備の動産譲渡登記とSPCの登記をご覧ください。
Q. 譲渡担保法の施行日はもう決まっていますか?
A. 2026年10月6日時点で、施行日を定める政令は確認できていません。法律上は公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日とされ、法務省は令和9年12月までに施行されると案内しています。
Q. 施行前に動産譲渡登記をしておけば、施行後に占有改定劣後ルールで劣後することはありませんか?
A. 動産譲渡登記は、占有改定以外の方法で対抗要件を備えたものとして扱われます(譲渡担保法36条1項)。根拠となる特例法3条1項は改正されないため、施行前にした登記も、この扱いになると考えられます。ただし、施行日前に別の債権者が占有改定で対抗要件を備えていた場合、その債権者が施行日から2年以内に順位保全の登記をすると、当初の占有改定の時に登記などで対抗要件を備えたものとみなされます(譲渡担保法附則5条1項)。このため、順位保全の登記より先にした登記であっても、その担保権に劣後することがあります。個別の案件の優劣の判断は、弁護士の先生方にご確認ください。
Q. これからする動産譲渡登記の存続期間を20年にできますか?
A. 20年の上限は改正後の特例法7条3項の規定で、施行後に適用されます。施行前にする動産譲渡登記は、現行法どおり10年が上限です(特別の事由がある場合を除きます)。融資期間が10年を超える案件では、延長登記の時期を含めて期間を管理する必要があります。
Q. 登記事項概要証明書で、譲渡担保権者も分かるようになりますか?
A. 改正後の特例法11条1項は、誰でも請求できる登記事項概要証明書から、動産・債権を特定する事項などを除くと定めていますが、除かれる事項に譲渡担保権者の記録は挙げられていません。もっとも、証明書の具体的な記載は施行に向けて示される省令などによるため、施行時に確認が必要です。
Q. 所有権留保で売った機械にも、登記が必要になりますか?
A. 所有権留保登記は、法人が留保買主等となる場合に利用できる登記で、登記が義務づけられるものではありません。代金債務など一定の債務だけを担保する所有権留保は、引渡しがなくても第三者に対抗できるとされています(譲渡担保法109条2項)。それ以外の所有権留保では、引渡し(留保買主等が法人であれば、所有権留保登記をすると引渡しがあったものとみなされます)が対抗要件になり、占有改定劣後ルールも準用されます。どちらに当たるかは契約内容によるため、契約書案の段階でご確認ください。なお、登録自動車のように登記・登録をしなければ権利の得喪を対抗できない動産は、いずれの場合も、留保売主等を所有者とする登記・登録が対抗要件になります(譲渡担保法109条1項・2項)。
この記事は2026年10月6日時点の法令・登記実務に基づいて作成しています。制度改正があれば見直します。
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