株式交換・株式移転・株式交付の登記|債権者保護手続・申請期限・日程の逆算

M&Aやグループ再編で、株式を対価にして親子会社の関係をつくる会社法上の主な手続に、株式交換・株式移転・株式交付があります。名前は似ていますが、どの会社が登記をするのか、債権者保護手続が要るのか、いつ効力が生じて登記の期限がいつまでかは、それぞれ異なります。この記事では、どの手法を選ぶかには立ち入らず、登記の観点から3つの違いと、効力発生日から逆算する日程の組み方を条文に沿って整理します。

結論。株式交換は既存の会社を完全子会社にする手続、株式移転は完全親会社となる会社を設立する手続、株式交付は議決権の過半数を取得して子会社にする手続(完全子会社にしなくてよい)です。登記は主に親会社の側で行います。株式交換と株式交付は、発行済株式の総数や資本金の額などが変わる場合に効力発生日から2週間以内に変更の登記を、株式移転は設立の登記をします。株式移転だけは、設立の登記の日に効力が生じます。債権者保護手続は、対価が親会社の株式だけ(株式以外の対価が全体の20分の1未満の場合を含む)で、新株予約権付社債の引継ぎもなければ不要です。

株式交換・株式移転・株式交付の登記の要点は?

株式交換
既存の株式会社を完全子会社にする。効力発生日は契約で定めた日(会社法768条1項6号)
株式移転
完全親会社を設立する。設立の登記の日に効力が生じる(会社法774条1項・49条)
株式交付
議決権の過半数を取得して子会社にする。2021年3月1日施行
登記をする会社
原則として親会社(株式交換・株式交付は登記事項が変わる場合)。子会社側は、新株予約権が親会社の新株予約権に置き換わる場合など
申請期限
株式交換・株式交付は効力発生日から2週間以内(会社法915条1項)。株式移転は925条各号の日のうち最も遅い日から2週間以内

株式交換・株式移転・株式交付は、何が違うのか?

3つとも、親会社が子会社の株式を取得し、対価として親会社の株式などを交付する点は共通しています。違いは、取得する範囲と、親会社がすでにあるかどうかです(会社法2条31号・32号・32号の2)。

株式交換
株式会社の発行済株式の全部を、既存の株式会社または合同会社に取得させる。完全親子会社の関係ができる
株式移転
1社または2社以上の株式会社の発行済株式の全部を、株式移転で設立する株式会社に取得させる。持株会社をつくる場面で使われる
株式交付
株式会社が、他の株式会社を子会社にするため、その株式を株主から譲り受け、対価として自社の株式を交付する。全株式を取得する必要はない

この記事では、親会社が株式会社である場合を前提にしています。

株式交換では、どの会社が何を登記するのか?

登記が必要になるのは、主に株式交換完全親会社です。対価として新株を発行すれば発行済株式の総数が、資本金を増加させれば資本金の額が変わるため、効力発生日から2週間以内に本店の所在地で変更の登記をします(会社法915条1項)。資本金の増加額は、株主資本等変動額の範囲内で株式交換契約の定めに従って決まります。債権者保護手続をとらない場合は、資本金と資本準備金への計上額に下限があります(会社計算規則39条2項。株式交付は39条の2第2項)。対価が自己株式や金銭だけで登記事項が変わらなければ、親会社の登記も生じません。

株式交換完全子会社は、株主が親会社に変わるだけで、株主は登記事項ではないため、原則として登記は要りません。例外は、子会社の新株予約権(ストックオプションなど)を親会社の新株予約権に置き換える場合です(会社法768条1項4号・769条4項)。親会社では新株予約権の発行、子会社では新株予約権の消滅の登記を同時に申請し、子会社の本店が別の登記所の管轄にあるときは、親会社の本店所在地を管轄する登記所を経由します(商業登記法91条)。クロージングに合わせて子会社の役員を入れ替えるなら、別に役員変更登記が必要です。

株式移転では、どの会社が何を登記するのか?

株式移転では、完全親会社となる株式会社の設立の登記をします(会社法925条)。登記事項は通常の設立と同じく、商号・本店・目的・資本金の額・役員などです。定款は株式移転をする会社が作成し、設立時取締役などは株式移転計画で定めます。子会社の新株予約権を親会社の新株予約権に置き換える場合は、子会社の新株予約権の消滅の登記を設立の登記と同時に申請します(商業登記法91条)。

効力は、設立の登記をして親会社が成立した日に生じます(会社法774条1項・49条)。設立の登記の日は登記所が申請を受け付けた日なので、期首などに合わせたい場合は申請日をその日にします。2026年2月2日からは、申請日の翌日が行政機関の休日であれば、その休日(連休のときはそのうちいずれか1日)を登記の日とするよう申請書で求めることができます(商業登記規則35条の4)。申請は、指定する日の直前の開庁日に受け付けられる必要があります(法務省の案内)。株式移転による設立の登記もこの特例の対象です(令和8年1月21日法務省民商第9号通達)。

株式交付とはどんな制度で、何を登記するのか?

株式交付は、令和元年の会社法改正で設けられ、2021年3月1日に施行された制度です(法務省の解説)。株式交付親会社が株式交付計画を作成し(会社法774条の2・774条の3)、譲渡しに応じた株主からの申込み、割当てと効力発生日の前日までの通知を経て、効力発生日に株式の給付を受けます。譲り受ける株式の総数を譲り渡す契約(総数譲渡し契約)を結ぶ場合は、申込みと割当ての手続を省けます。計画で定める譲受株式数の下限は効力発生日に子会社となる数とする必要があり(同774条の3第2項)、給付を受けた株式が下限に届かなければ効力は生じません(同774条の11第5項3号)。

登記をするのは株式交付親会社だけで、効力発生日から2週間以内に、発行済株式の総数、資本金の額、新株予約権を交付した場合はその事項の変更の登記をします(同915条1項)。これらに変更がなければ、登記は生じません。主な添付書面は、株式交付計画書、申込みまたは総数譲渡し契約を証する書面、株主総会議事録と株主リスト(主要な株主の一覧)、資本金の計上に関する証明書などです(商業登記法90条の2・46条など)。

現行法では、株式交付子会社は議決権の過半数を持つことで子会社となる株式会社に限られ(会社法施行規則4条の2)、すでに子会社である会社の株式の買い増しや、持分会社・外国会社は対象外です。これらを対象に加える見直しは、2026年3月に法制審議会の部会が取りまとめた中間試案で提案され、2026年10月6日時点では部会で審議中です(法務省の部会ページ)。また、株式交換には譲渡制限株式の取得を子会社が承認したものとみなす規定(会社法769条2項)がありますが、株式交付にはありません。子会社の株式に譲渡制限があるときは、子会社側の譲渡承認の要否と時期を、早めに関係者の間で確認しておきます。

債権者保護手続が必要になるのは、どんな場合か?

債権者保護手続は、対価が親会社の株式だけ(株式以外の対価が全体の20分の1未満の場合を含む)で、新株予約権付社債の引継ぎもなければ不要です。合併や会社分割と違い、3つの手続では会社の財産そのものは移らないため、債権者保護手続が必要になる場面は限られています。

株式交換(親会社)
対価に親会社の株式(これに準ずるもの)以外が含まれる場合と、子会社の新株予約権付社債を引き継ぐ場合(会社法799条1項3号)。株式以外の対価が全体の20分の1未満なら、株式に準ずるものとして扱われる(会社法施行規則198条)
株式交換(子会社)・株式移転
子会社の新株予約権付社債を親会社が引き継ぐ場合の、その社債権者だけ(会社法789条1項3号・810条1項3号)
株式交付(親会社)
対価に親会社の株式(これに準ずるもの)以外が含まれる場合(会社法816条の8第1項、会社法施行規則213条の7)

必要な場合は、官報に公告し、知れている債権者には個別に催告します。異議を述べることができる期間は1か月以上とし、官報に加えて定款で定めた日刊新聞紙または電子公告でも公告すれば、個別の催告を省けます(会社法799条2項・3項など)。公告には計算書類に関する事項も載せるため、決算公告の状況も早めに確認します。効力発生日までに手続が終わっていなければ、効力は生じません(同769条6項、774条の11第5項1号)。なお、2026年3月の中間試案には、株式交付親会社と一定の場合の株式交換完全親会社の債権者保護手続を廃止する案もありますが、現行法では必要です。

効力発生日と登記の申請期限は?

株式交換の効力発生日は契約で定めた日で、両社の合意で変更できます。変更したときは、子会社が、変更前の効力発生日(早める場合は変更後の日)の前日までに、変更後の日を公告します(会社法790条)。株式交付の効力発生日は計画で定めた日で、親会社だけで変更できますが、当初の日から3か月以内に限られ、同じ期限までに親会社が公告します(同816条の9)。どちらも登記は効力発生日から2週間以内で、効力発生日を土日祝日とすることもできます。

株式移転は、株主総会の決議の日、株主・新株予約権者への通知または公告から20日を経過した日、債権者保護手続が終了した日、会社が定めた日などのうち最も遅い日から2週間以内に登記します(同925条)。設立の登記の日に効力が生じるため、これらの日を経過した後、成立させたい日に登記がされるよう申請します。

日程はどう逆算するか?

一般化した設例として、取締役会設置会社どうしで、親会社が自社株式に加えて対価全体の20分の1以上の金銭を交付する株式交換を、効力発生日X日で行う場合の主な手続を並べます。実際の日程は、株券や新株予約権の有無、簡易・略式の手続(規模や持株比率により株主総会を省ける手続)の可否、官報の掲載日程などで変わります。

X日の2か月前ごろ
両社の取締役会で株式交換契約を承認し、締結。官報の掲載日程を確認
下の手続のうち最初の日
事前開示(契約の内容などを本店に備え置き、株主・債権者が見られるようにする)を開始。開始日は、株主総会の2週間前の日、株主への通知の日、公告・催告の日のうち最も早い日(会社法782条2項・794条2項)
X日の1か月余り前まで
親会社が官報公告と、知れている債権者への催告。1か月以上の異議申述期間がX日の前日までに満了するよう、官報の掲載日から逆算
X日の1か月前まで
子会社が株券発行会社(株券を発行する旨を定款で定めた会社)なら、株券提出の公告と通知
X日の20日前まで
両社が株主へ通知(公告で代えられる場合あり)
X日の前日まで
両社の株主総会で承認(原則として特別決議)。異議申述期間の満了
X日から2週間以内
親会社の変更登記。子会社の新株予約権を親会社の新株予約権に置き換えるなら、子会社の登記も同時に申請

株式移転では、株主への通知・公告を株主総会の決議の日から2週間以内に行います(同806条3項)。株式交付では、申込期日と割当ての通知が加わります。いずれも、動かせない日を先に決めて逆算するのが基本です。

登記の観点から、早めに共有しておきたい資料は?

3つの手続では子会社の財産の名義は変わらないため、合併や会社分割と違って、不動産の所有権移転登記は通常生じません。論点は株式・新株予約権・資本金と日程に集中します。

  • 契約書・計画書の案(交付する株式の数、資本金・準備金の額、新株予約権の扱い、効力発生日)
  • 関係する会社の定款と登記事項証明書(公告方法、株券の有無、種類株式の内容)
  • 株主名簿と、新株予約権・新株予約権付社債の発行状況
  • 決算公告の状況と、同じ時期に予定している役員変更などの登記

当法人では、契約書案や計画書案のうち登記申請に必要な記載の確認から、効力発生日に合わせた申請までを承ります。登記に関するご相談への回答と登記の申請は司法書士が行い、手法の選択や税務・会計は弁護士・税理士・公認会計士の先生方のご判断を前提に進めます。企業法務・ファイナンス登記のページもご覧ください。

Q. 株式交換をすると、子会社の登記簿に親会社の名前が載りますか?

A. 載りません。株主は登記事項ではないためです。子会社で登記が必要になるのは、新株予約権が親会社の新株予約権に置き換わる場合や、同じ時期に役員を入れ替える場合などです。

Q. 対価に少しでも金銭が入ると、債権者保護手続が必要になりますか?

A. 株式交換と株式交付の親会社では、株式以外の対価が全体の20分の1未満であれば不要です(会社法施行規則198条・213条の7)。20分の1以上になる場合や、株式交換で新株予約権付社債を引き継ぐ場合は必要です。

Q. 株式移転で持株会社の成立日を4月1日にしたいのですが、休日に当たる年はどうなりますか?

A. 直前の開庁日に申請し、申請書で4月1日を登記の日とするよう求めることができます(商業登記規則35条の4)。株主総会や通知・公告などの手続は申請日までに終え、添付書面も申請日までに作成しておきます。株式移転計画などで会社が定める日(会社法925条6号)を置く場合は、申請日との関係も含めて事前に確認します。

Q. すでに議決権の過半数を持っている会社の株式を、株式交付で買い増せますか?

A. 現行法では対象外です。2026年10月6日時点では、見直しが法制審議会の部会で審議されています。改正があればこの記事も見直します。

この記事は2026年10月6日時点の法令・登記実務に基づいて作成しています。制度改正があれば見直します。

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