吸収合併の登記は、効力発生日から2週間以内に、存続会社の変更登記と消滅会社の解散登記をそろえて申請する手続です。ただ、日程を左右するのは登記そのものより、その前に行う債権者保護手続(1か月以上の異議申述期間)や株主総会、株主への通知です。この記事では、吸収合併・新設合併の流れ、登記の期限と申請先、主な添付書面、登録免許税の考え方を登記の観点から整理し、効力発生日から逆算した日程の目安を示します。
結論。吸収合併は合併契約で定めた効力発生日に、新設合併は設立の登記の日に効力が生じます。登記は、吸収合併なら効力発生日から2週間以内、新設合併なら株主総会の決議の日や債権者保護手続が終了した日など、法定の日のうち最も遅い日から2週間以内に、存続会社(設立会社)の本店所在地で、消滅会社の解散登記と同時に申請します。吸収合併では、債権者保護手続の1か月以上の異議申述期間を効力発生日の前日までに満了させる必要があり、ここが日程の起点になります。略式合併・簡易合併で株主総会を省略できても、債権者保護手続は省略できません。
合併の登記の要点は?
- 効力発生日
- 吸収合併は合併契約で定めた日、新設合併は設立の登記の日(会社法750条1項・754条1項・49条)
- 債権者保護手続
- 官報公告と知れている債権者への催告。異議申述期間は1か月以上(会社法789条・799条・810条)
- 登記の期限
- 吸収合併は効力発生日から2週間以内、新設合併は法定の日のうち最も遅い日から2週間以内(会社法921条・922条)
- 登録免許税
- 増加した資本金(新設合併は資本金)の1000分の1.5。消滅会社の資本金の額を基準とする上限額を超える部分は1000分の7
- 株主総会の省略
- 略式合併(相手方が特別支配会社の場合)と、存続会社側の簡易合併(対価が純資産額の5分の1以下)
吸収合併と新設合併の違いは?
吸収合併は、当事会社のうち1社が存続して他の会社の権利義務を引き継ぐ形、新設合併は、当事会社がすべて消滅して設立される会社が権利義務を引き継ぐ形です(会社法748条以下)。
登記の観点で大きく違うのは効力が生じる日で、吸収合併は登記の日ではなく合併契約で定めた効力発生日(同法749条1項6号・750条1項)、新設合併は設立会社が成立する設立の登記の日です(同法49条・754条1項)。会社分割などは、会社分割の登記と株式交換・株式移転・株式交付の登記の記事で解説しています。
合併の手続はどんな順番で進む?
株式会社同士の吸収合併は、おおむね次の順に進みます(2〜6は並行することが多く、期限は手続ごとに異なります)。
- 合併契約の締結 ― 対価と割当て、効力発生日などを定めます(会社法749条1項)。
- 事前開示書類の備置き ― 株主総会の日の2週間前の日や、債権者保護手続の公告・催告の日などのうち最も早い日から始めます(同法782条・794条)。
- 株主総会の承認 ― 効力発生日の前日までに、原則として特別決議で承認を受けます(同法783条1項・795条1項・309条2項12号)。
- 株主・新株予約権者などへの通知 ― 買取請求などの機会を確保するため、効力発生日の20日前までに行います。一定の場合は公告で代えられます(同法783条5項・785条3項・787条3項・797条3項)。
- 債権者保護手続 ― 官報公告と催告を行い、1か月以上の異議申述期間を置きます(同法789条・799条)。
- 株券・新株予約権証券の提出に関する公告 ― 消滅会社が発行している場合、効力発生日の1か月前までに公告と通知をします(同法219条1項6号・293条1項3号)。
- 効力発生 ― 存続会社が消滅会社の権利義務を承継します。
- 登記の申請 ― 効力発生日から2週間以内に申請します(同法921条)。
- 事後開示 ― 存続会社が効力発生日後遅滞なく書面を作成し、6か月間備え置きます(同法801条)。
債権者保護手続で押さえることは?
合併では、消滅会社と存続会社の双方で、すべての債権者が異議を述べることができます。各社は、合併をする旨、相手方の商号と住所、当事会社の計算書類に関する事項、1か月以上の期間内に異議を述べることができる旨を官報に公告し、知れている債権者には各別に催告します(会社法789条1項〜2項・799条1項〜2項)。計算書類に関する事項は、最終事業年度の決算公告をしていればその掲載場所など、貸借対照表をウェブで開示していればそのURL、どちらもしていなければ原則として貸借対照表の要旨です。ただし、有価証券報告書を提出している会社、特例有限会社、最終事業年度がない会社(設立後、最初の事業年度の計算書類の承認を受ける前の会社)などは、その旨を載せます(会社法施行規則188条・199条)。
定款で公告方法を日刊新聞紙または電子公告と定めている会社は、官報に加えてその方法でも公告する、いわゆる二重公告によって、各別の催告を省略できます(会社法789条3項・799条3項)。電子公告による場合は、調査機関の電子公告調査が必要です(同法941条)。異議を述べた債権者には、害するおそれがない場合を除き、弁済・担保の提供・信託のいずれかをします(同法789条5項・799条5項)。
略式合併・簡易合併とは?
- 略式合併
- 相手方が自社の特別支配会社(相手方とその完全子会社などで、自社の総株主の議決権の10分の9(定款で引上げ可)以上を有する会社)であれば、支配されている側は株主総会を省略できます(会社法784条1項・796条1項・468条1項)。対価が譲渡制限株式等である一定の場合は省略できません。
- 簡易合併
- 存続会社の側だけの制度です。対価の額が存続会社の純資産額の5分の1(定款で引下げ可)以下なら、存続会社は株主総会を省略できます(同法796条2項)。ただし、いわゆる合併差損が生じる場合、非公開会社の存続会社が譲渡制限株式を交付する場合、一定数の株主が反対を通知した場合は総会が必要です(同条2項ただし書・3項)。
- 共通の注意
- 総会を省略しても、債権者保護手続は省略できません。
合併の登記は、いつまでに、どこへ申請する?
吸収合併では、効力発生日から2週間以内に、本店の所在地で、消滅会社の解散の登記と存続会社の変更の登記をします(会社法921条)。新設合併では、株主総会の決議の日、債権者保護手続が終了した日、当事会社が合意で定めた日など、法定の日のうち最も遅い日から2週間以内に、解散の登記と設立の登記をします(同法922条1項)。新設合併では、申請日の翌日が行政機関の休日なら、その休日(連休ならそのいずれか一日)を設立の登記の日、つまり合併の効力が生じる日とするよう求めることもできます(商業登記規則35条の4。2026年2月2日施行。休日直前の開庁日に、設立の登記と併せて申請します)。
消滅会社の解散の登記は、存続会社(設立会社)の代表者が消滅会社を代表して、存続会社の変更登記(設立登記)と同時に申請します。消滅会社の本店が別の管轄にあるときは、存続会社(設立会社)の本店所在地の登記所を経由します。どちらかの申請に却下の事由があれば、両方とも却下されます。なお、解散の登記の申請書に添付書面は要りません(商業登記法82条・83条1項)。
吸収合併で消滅する会社の解散は、合併の登記の後でなければ第三者に対抗できず(会社法750条2項)、登記を怠ると過料の対象となり得ます(同法976条1号)。効力発生後は2週間しかないため、書類は効力発生日より前にそろえておくのが基本です。
主な添付書面は?
株式会社同士の吸収合併で、存続会社の変更登記に添付する主な書面です(商業登記法46条・80条、商業登記規則61条3項ほか)。法務局の申請書様式にある吸収合併・新設合併の記載例も参考になります。
- 合併契約書
- 効力発生日を変更した場合は、変更の契約書なども必要です。
- 株主総会議事録・株主リスト
- 存続会社と消滅会社の双方。略式・簡易合併では、要件を満たすことを証する書面と取締役会議事録などに代わります。
- 債権者保護手続の書面
- 公告、催告書の控え、異議を述べた債権者への弁済などを証する書面(異議がなければその旨を記載)。双方の会社分です。
- 資本金に関する書面
- 資本金の額の計上に関する証明書と、登録免許税法施行規則12条5項の証明書(1000分の1.5の上限額を計算するための書面)。いずれも資本金が増加する場合です。
- 消滅会社の登記事項証明書
- 会社法人等番号を申請書に記載すれば省略できます(商業登記法19条の3)。
- 株券・新株予約権証券の提供公告の書面
- 消滅会社が株券発行会社である場合や新株予約権を発行している場合(株券・証券を発行していなければ、それを証する書面)。
新設合併では、定款や設立時取締役などの就任承諾書も必要です(商業登記法81条)。存続会社で役員を選任する場合は役員変更登記の記事もご覧ください。
登録免許税はどう計算する?
吸収合併で資本金が増える場合、存続会社の資本金の増加の登記の登録免許税は、増加した資本金の額の1000分の1.5(消滅会社の資本金の額をもとに財務省令で定める額を超える部分は1000分の7。税額が3万円に満たないときは3万円)で、消滅会社の解散の登記は申請1件につき3万円です(登録免許税法別表第一第24号(一)ヘ・レ)。
登録免許税法別表第一第24号(一)で、次のように定められています。
- 吸収合併による資本金の増加の登記 ― 増加した資本金の額の1000分の1.5。ただし、下で説明する上限額を超える部分は1000分の7。税額が3万円に満たないときは3万円です(同号(一)ヘ)。
- 新設合併による設立の登記 ― 資本金の額について同じ考え方で計算し、最低額も3万円です(同号(一)ホ)。
- 消滅会社の解散の登記 ― 申請件数1件ごとの定額です(同号(一)レ)。
上限額(条文上は「財務省令で定めるもの」)は、吸収合併では次の手順で計算します(登録免許税法施行規則12条2項)。
- 消滅会社の純資産額(資産の額から負債の額を引いた額)を出します。これが消滅会社の資本金の額以下なら、資本金の額を使います。
- 1の額から株式以外の対価の価額(存続会社が持っていた自己株式を交付する場合はその価額を含む)を差し引き(マイナスなら0)、1の額で割って割合を出します。
- 消滅会社の資本金の額に2の割合を掛けた額が上限額です。消滅会社が2社以上なら各社分を合計します。
対価がすべて存続会社が発行する株式なら、消滅会社の資本金の額までが1000分の1.5の対象で、金銭などの対価が多いほどその部分は小さくなります。資本金が増加しない吸収合併は(一)ヘに当たらず、登記事項の変更の登記(同号(一)ツ)の区分によります。
効力発生日から逆算すると、日程はどう組む?
一般化した設例として、株式会社同士の吸収合併で、両社とも株主総会を開き、株券・新株予約権証券は発行していないケースの、効力発生日を基準にした目安です。実際の日付は案件ごとに確定させます。
- 効力発生日の2〜3か月前
- 定款、登記事項証明書、株主名簿、直近の貸借対照表、決算公告の状況、新株予約権の有無を確認します。
- 官報の掲載申込みまで
- 合併契約の締結。公告文を固め、官報の掲載を申し込みます。
- 効力発生日の1か月以上前
- 官報公告と催告(または二重公告)。事前開示書類の備置きもこの頃までに始めます。
- 効力発生日の20日前まで
- 株主・新株予約権者・登録株式質権者などへの通知。株主への通知を公告で代えられるのは、公開会社か、株主総会の承認を受けた後に限られます(会社法785条4項・797条4項)。
- 効力発生日の前日まで
- 株主総会の承認、異議申述期間の満了と異議への対応。
- 効力発生日から2週間以内
- 変更登記と解散登記を同時に申請します。
たとえば4月1日を効力発生日とするなら、異議申述期間を3月31日までに満了させるため、官報公告と催告は遅くとも2月中に済ませておく必要があります。業種によっては行政庁の認可が合併の効力要件とされている場合や、独占禁止法上の事前の届出が必要な場合(同法15条2項)もあり、効力発生日の設定に影響します。
合併の比率や対価、会計・税務は、弁護士・税理士などの先生方や事業会社のご判断を前提とするもので、この記事は登記の観点に絞っています。当法人では、合併契約書案のうち登記申請に必要な記載の確認、公告・通知と登記申請の日程の整理、添付書面の準備を承ります。登記に関するご相談への回答と登記の申請は、司法書士が行います。企業法務・ファイナンス登記のページもご覧ください。
Q. 効力発生日までに債権者保護手続が終わらない場合は?
A. 合併の効力は生じません(会社法750条6項)。当事会社の合意で効力発生日を変更でき、消滅会社は変更前の効力発生日の前日までに、変更後の効力発生日を公告します(同法790条)。
Q. 消滅会社の不動産や、融資の担保はどうなりますか?
A. 消滅会社名義の不動産は、合併を原因とする所有権移転の登記が別に必要です。元本確定前の根抵当権の債務者が合併した場合、根抵当権は合併後の債務も担保しますが、債務者以外の設定者は、合併を知った日から2週間以内(かつ合併の日から1か月以内)なら元本の確定を請求できます(民法398条の9)。担保の登記の扱いは、当事会社と担保権者(金融機関)で事前にすり合わせておくと、日程を組みやすくなります。
Q. 効力発生日から登記が終わるまでの間に、注意することは?
A. 登記が完了するまで、登記事項証明書に合併は反映されません。融資の実行や不動産の決済など、効力発生日の直後に証明書が必要な予定があれば、登記の申請日と完了の見込みを確認しておくと安心です。
この記事は2026年10月6日時点の法令・登記実務に基づいて作成しています。制度改正があれば見直します。
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